バンドを辞める。活動を止める。楽器を置く場所がなくなった。理由はいろいろあると思いますが、そのときに必ず出てくるのが機材をどうするかという話です。
自分は楽器店に10年いました。持ち込まれた楽器に値段をつける側にいた人間です。
その上で、先に一番言いたいことを書きます。
急いで売らないでください。
売るなと言っているのではありません。売り方によって、手元に残る金額が倍近く変わるからです。そして、その差を知らずに売っている人が本当に多いです。
買取と委託では、手取りが違います
楽器を手放す方法は、大きく2つあります。買取と委託販売です。
自分がいた店では、委託のほうが多かったです。理由は、そのほうが持ち主に金が残るからでした。
| 手元に戻る金額 | 入金のタイミング | |
|---|---|---|
| 買取 | 定価の2割前後 | その場で現金 |
| 委託販売 | 販売価格の70% | 売れてから |
先に断っておきます。この割合は、自分が楽器店にいた当時の、その店の数字です。今の相場がどうなっているかは分かりません。そのまま当てはめず、目安として読んでください。
それでも書くのは、買取と委託で手取りの計算方法がまったく違うという構造は、今も変わらないからです。
この2つは、そもそも計算の基準が違います。買取は「新品のときの定価」の2割、委託は「中古で売れた価格」の7割です。
仮の数字で並べてみます。
| 定価10万円のギター(中古で5万円で売れるとする) | |
| 買取 10万円 × 2割 | 約2万円 |
| 委託 5万円 × 70% | 3万5千円 |
同じギターで、1万5千円の差が出ます。
ただし、委託には弱点があります
即金性がありません。
買取なら、その場で現金になります。委託は、買う人が現れるまで1円も入りません。売れなければ、ずっと入りません。
だから、どちらが正解ということはありません。
- 今月中に金が要る → 買取
- 数か月待てる → 委託
これだけです。問題は、委託という選択肢があること自体を知らずに、買取に出している人が多いことです。店に「委託はやっていますか」と一言聞くだけで、選べるようになります。
※ もう一度書きます。上の割合は、自分がいた当時の、その店の数字です。今の相場は分かりませんし、店によって条件も違います。委託を扱っていない店もありますし、宅配買取の業者は基本的に買取だけです。金額は必ず、自分が持ち込む店で確認してください。
値段がつかない楽器の、本当の理由
査定に出して「値段がつきません」と言われたことがある人は、たぶん理由をこう思っています。「古いから」「壊れているから」「安物だから」。
実際は違います。
直すためにかかる金が、その楽器の販売価格に近づいた瞬間、値段はつかなくなります。
店は、買い取った楽器を売れる状態にしてから店頭に出します。その修理代は店が払います。
だから計算はこうなります。
| 中古で売れる価格 | 3万円 |
| 直すのにかかる費用 | 2万5千円 |
| 店に残るもの | 5千円 |
ここまで来ると、店は引き取れません。「壊れているから0円」ではなく、「直す金と売る金が同じになったから0円」です。
逆に言うと、直す必要がないほど状態がいい楽器は、それだけで値段が上がります。状態が良いことは、店にとって「修理代がかからない」ということだからです。
ギターで実際に見ているところ
- ネックの反り
- 電装系(ジャック、ポット、ピックアップ)
- 実際に鳴らせるかどうか
この3つは、直すのに金がかかる場所です。見た目の傷より、こちらのほうが金額に効きます。
そのほか、ブランド、年式、付属品、そして貴重性を見ます。同じモデルでも、もう作られていないものは別扱いになります。
査定は、大事に使われていたかどうかを見ています
値段をつけるとき、状態と定価のほかにもう1つ見ていたものがあります。
この楽器は、大事に使われてきたかどうか。
使い込まれていることと、雑に扱われていることは違います。ライブで何百本も弾かれてきたギターでも、手入れされているものは一目で分かります。
そして、これは感情の話ではなく、実務の話でもあります。
大事に使われてきた楽器は、見えないところも壊れていない可能性が高いからです。逆に、外から見て雑に扱われている楽器は、開けたときに何が出てくるか分かりません。
それに、査定するのも人間です。汚れたまま持ち込まれた楽器より、きれいなもののほうが受け入れやすい。これは正直にそうです。
出す前にやると、少しだけ変わること
誇張せずに書きます。劇的には変わりません。でも、やらないよりはいいという程度には変わります。
- 掃除する(ボディ、指板、金属パーツ)
- 弦を張り替える
- 付属品をそろえる
手間はほとんどかかりません。1時間で終わる作業で、数千円変わることがあるくらいに考えてください。
これをやると、はっきり損します
逆に、金額がはっきり落ちるものを2つ書きます。どちらも、買ったときには気にしていないことです。
❶ 購入時の付属品を失くす
純正のケース、保証書、説明書、アーム、レンチ、元から付いていたパーツ。これが揃っているかどうかで、評価が変わります。
買ったその日にケースを押し入れの奥に入れて、10年後に見つからない。よくある話です。
今まだ持っている人は、売る予定がなくても、付属品を1か所にまとめておいてください。これだけで将来の手取りが変わります。
❷ 本体に落書きをする
本体への書き込み、サイン、剥がれないステッカー。これは戻せません。
やっているときは格好いいんです。自分もやりました。でも次に買う人は、他人の落書きが入った楽器を選びません。
どうしてもやりたいなら、ピックガードやケースなど、交換できる部分にしてください。そこなら元に戻せます。
それでも、売るしかないときがあります
ここまで「急いで売るな」と書いてきましたが、売る理由が金であることは、とても多いです。
バンドをやっていると、だいたい金がありません。自分もそうでした。家賃、機材のローン、スタジオ代、遠征費。手元にあるもので現金になるのは楽器だけ、という状況は普通にあります。
だから、金のために手放した人を責める気はまったくありません。そうするしかなかったんです。
ただ、その状況だからこそ言えることがあります。
金が要るから売るのなら、なおさら1円でも高く売るべきです。
焦っているときほど、最初に行った店の言い値で手放してしまいます。その日に決めなくていいなら、1日だけ待ってください。掃除をして、付属品を探して、委託があるか聞く。それだけで数千円から1万円は変わります。
自分は、売らなければよかったと思っています
最後に、査定する側にいた人間としてではなく、売った側の人間として書きます。
これまでに何本も楽器を売ってきました。ほとんどは金が要ったからです。そのときは、それが正しい判断でした。
それでも、今はこう思っています。
売らなければよかった。
値上がりしたからではありません。思い出のほうです。
あのギターで初めてライブに出た、あのベースで初めて曲を書いた。そういうものは、同じ型番をもう一度買っても戻ってきません。楽器そのものは買い直せますが、そこに付いていた時間は買い直せません。
だから、もし今すぐ金が必要というわけではないなら、1本だけでも残しておくことを勧めます。全部売る必要はありません。
バンドを辞めても、楽器を持っていることはできます。10年後にまた弾くかもしれません。自分は、辞めたつもりだった時期を挟んで、今もまだやっています。
まとめ
- 買取は定価の2割前後、委託は販売価格の70%(※当時の目安。今の相場は要確認)。委託は売れるまで金が入らない
- 「委託はできますか」と聞くだけで選択肢が増える
- 値段がつかないのは壊れているからではなく、直す金と売る金が同じになったから
- ギターはネックの反り・電装系・鳴るかどうかを見られている
- 査定は大事に使われてきたかを見ている。掃除・弦交換・付属品で少し変わる
- 付属品の紛失と本体への落書きは、はっきり損する
- 金のために売るなら、なおさら1日待って高く売る
- 全部売らなくていい。1本だけ残すという選択がある
楽器店に10年、飲食に20年いて、今もバンドをやっています。査定する側も、売る側も、両方やってきました。その立場から書いています。→ プロフィール
そもそもバンドの金がなぜ足りなくなるのかは、店側の損益から説明した記事があります。→ ライブハウスが儲からない理由と、ノルマがある理由

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