宮崎で「UTAGE」という居酒屋をやっています。客席を20席潰してステージを作った店で、月に何本かライブをやっています。
この記事では、ライブを1本やると店にいくら入って、いくら残るのかを、うちの実数で全部書きます。固定費も、チャージの取り分も、ノルマも、全部です。
先に結論を書きます。
ライブハウスが儲からないのは、ライブで儲からないからではありません。ライブ以外で儲ける手段がないからです。
そして、ノルマはその構造から出てきています。店主の性格でも、良心の有無でもありません。
先に断っておくと、この記事はどこかのライブハウスを批判するものではありません。うちも同じ側の人間です。うちもノルマを取っています。取る側がなぜ取るのかを、数字で説明します。
店を1日開けるのに、いくらかかるか
ライブの話をする前に、ここから始めないと意味がありません。客が1人も来なくても出ていく金の話です。
UTAGEの月々の固定費です。80席、宮崎、1店舗ぶんの実数です。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 家賃 | 30万円 |
| 人件費(20人弱の体制) | 80万円 |
| 水道光熱費 | 15〜20万円 |
| リース・通信・保険・著作権料など | 5万円 |
| 合計 | 約130〜135万円 |
月25日営業なので、割るとこうなります。
店を1日開けるだけで、約5万4千円が出ていく。
これは食材の原価を入れる前の数字です。客が来れば、そこに仕入れが乗ります。
この5万4千円が、ノルマという仕組みの出発点です。
ちなみに「リース・通信・保険・著作権料など」の5万円の中に、音楽の著作権料も入っています。ライブをやる店は権利料で大変なことになる、という話をたまに聞きますが、うちの規模ではこの枠に収まっています。
ライブの日、客1人からいくら取っているか
うちのライブの料金です。
| 項目 | 金額 | 店の取り分 |
|---|---|---|
| チャージ(入場料) | 1,500〜2,500円 | 全額 |
| 1ドリンク | 500円 | 原価を引いた残り |
| 追加の飲食 | キャッシュオンで別途 | 通常の居酒屋と同じ |
ここで2つ、正直に書いておきます。
ひとつ。チャージは店が全額取っています。出演バンドに現金は基本的に渡していません。渡しているのはドリンクチケットです。
これだけ読むと、ずいぶん店に有利に見えると思います。実際、有利です。ではその有利な条件で、いくら残っているのか。それをこれから書きます。
もうひとつ。3行目の「追加の飲食」が、この記事で一番大事な行です。ここが専業のライブハウスとの決定的な違いになります。後で戻ってきます。
ライブ1本で、店に残るのは約5万円
うちのライブは日曜にやっています。日曜の売上は、平均すると平日と同じくらいで、だいたい14万円です。
そこにライブが入ると、売上はおよそ5割増えます。
| ライブがない日曜 | 約14万円 |
| ライブがある日曜 | 約21万円 |
| 増えた分 | 約7万円 |
この7万円から、増えた分の食材・飲料の原価が出ていきます。仮に3割とすると約2万1千円。手元に残るのは、およそ5万円です。
※ 原価3割は一般的な目安を当てはめた仮の数字です。うちの実際の原価率とは差があります。
ただし、この5万円には大きな前提が1つあります。
PA卓に、自分が座っているから
音響と照明は、ほとんど自分でやっています。外注すると、こうなります。
| PA・照明を外注 | 1本 10,000〜15,000円 |
| 自分で卓に座る | 0円 |
つまり、自分が卓に座ることで1本あたり1万5千円浮いています。年に50本やれば75万円です。
言い換えると、外注していたら残りは3万5千円まで落ちます。
専業のライブハウスは、ここにPAの人件費が毎回、必ず乗ります。自分でやれる人が経営していない限り、この1万5千円は逃げられません。
では、専業のライブハウスはどうなるのか
さっき「後で戻ってくる」と書いた行に戻ります。追加の飲食です。
同じ1人の客が来たとき、店に落ちる金がこれだけ違います。
| 専業のライブハウス | UTAGE | |
|---|---|---|
| チャージ | 取る | 取る |
| ドリンク | 1杯で終わり | 1杯+おかわり |
| 食事 | ない | ある |
ライブハウスの客は、演奏を見て、1杯飲んで、帰ります。それ以上、店に金を落とす場所がありません。建物の作りからしてそうなっています。
うちは居酒屋です。ライブを見に来た客が、そのまま飲んで食べていきます。そして、バンドの客はよく飲みます。これは本当によく飲みます。
同じ動員、同じチャージ、同じ演奏。それでも店に残る金が違います。違いは演奏の中身ではなく、客が座る場所に食事のメニューがあるかどうかです。
ライブハウスが儲からないのは、ライブで儲からないからではない。ライブ以外で儲ける手段がないからだ。
ここまでが前半です。ここから、ノルマの話に入ります。
うちもノルマを取っています。1人3枚です
ここを隠すと、この記事は嘘になります。UTAGEもノルマを設定しています。
メンバー1人につき3枚。エントリーはだいたい3〜4バンドです。
| 1人あたりのノルマ | 3枚 |
| 4人編成のバンド1組 | 12枚 |
| 3〜4組がエントリー | およそ40枚前後 |
数字だけ見れば、40人入る計算になります。
でも、そこまで入っていません
正直に書きます。ノルマは、完全には回収しきれていません。
さっきの「売上が7万円増える」という数字から逆算すると、実際に入っているのはノルマ上の想定の半分くらいです。
そして、その差額をうちはバンドから取り立てていません。店が被っています。
ここで「UTAGEは優しい店だ」と読まないでください。そうではありません。
ノルマが厳しい店と、ゆるい店の違い
なぜうちが取り立てずに済むのか。答えは、この記事の前半に全部書いてあります。
被れるからです。
うちは、ライブがない日も25日営業しています。金曜と土曜は満席になります。貸切も入ります。ライブで足が出ても、月全体では回ります。
専業のライブハウスには、その逃げ場がありません。
| ライブ以外の売上 | 差額を被れるか | 結果 | |
|---|---|---|---|
| 専業のライブハウス | ない | 被れない | きっちり取るしかない |
| UTAGE | ある | 被れる | 取り立てずに済む |
ノルマを緩くできるのは、他で稼いでいる店だけです。
「あの店はノルマがきつい」「あの店は優しかった」——バンドをやっていると、そういう話をよくします。自分も演者側にいるので、さんざん言ってきました。
ただ、店をやる側に回って分かりました。そこで比べているのは、店主の人柄ではありません。その店にライブ以外の売上があるかどうかです。
ノルマをきっちり取る店は、ケチなのではありません。取らないと、来月そのハコがなくなります。
ノルマは、金を取るための仕組みではありません
ここが、この記事で一番書きたかったところです。
うちが売れ残りを取り立てないのは、金をあきらめているからではありません。回収の仕方が違うだけです。
チケットが売れなくても、そのバンドが普段の営業日に飲みに来てくれれば、店としては十分です。ノルマは、そのための口実にもなっています。「今度飲みにおいでよ」と言える関係が残れば、それでいい。
だから、努力しているかどうかは見ています。
声をかけて回っても売れないことはあります。それは仕方がないです。誰にでもあります。
ただ、チケットも売らない、ご飯も食べに来ない。それが続けば、次のライブに誘わなくなります。これは意地悪でも罰でもなくて、必然です。
ノルマに罰金はありません。代わりに「次がない」という形で効いています。
ノルマの本当の役割は、金を回収することではありません。この店と続けていける相手かどうかを見る仕組みです。
もし今、ノルマが払えなくて店に行きづらいと思っている人がいるなら、伝えたいことがあります。売れなかったこと自体を怒っている店は、たぶんそんなに多くありません。連絡が来なくなることのほうを見ています。
ハコの常連が、あなたのライブを見にくることはありません
これは書くかどうか少し迷いましたが、書きます。知らないままだと損をするからです。
ライブの日に、うちの常連さんがふらっと来ることはあります。その人がそのまま入場したことは、経験上ほぼありません。99%ないです。
つまり、こういうことです。
その日の客席にいる人は、全員あなたが呼んだ人です。
「いい演奏をすれば、ハコの客がついてくれる」——自分も昔そう思っていました。そうはなりません。飲みに来ている人は飲みに来ているのであって、たまたま隣で始まったライブに1,500円払う人は、ほとんどいません。
だから店側は、動員をバンドに頼るしかありません。ノルマという形にせよ、お願いという形にせよ、そこは変わりません。店が客を連れてこられるなら、最初からノルマなんて面倒な仕組みは要らないんです。
結局、ライブは儲かるのか
うちの場合は、儲かっています。1本あたり約5万円。
ただし、そう言えるには条件が3つ揃っています。
- 居酒屋の売上がある。客が飲んで食べていく
- PAに自分が座れる。1本1万5千円が浮く
- 満席にならない日にやっている。日曜だから、潰れる席がない
3つ目について補足します。うちは金曜・土曜・祝前日はほぼ満席になります。ただし「満席」といっても80人入るわけではありません。6人がけのテーブルが13〜14卓あって、6人席を2人で使われることも多いので、実際は60〜70人です。それでも断る日はあります。
もし土曜にライブを入れたら、その席を全部手放すことになります。ライブで7万円増えても、失う席のほうが大きいんです。
だから日曜にやっています。優しさでも、こだわりでもありません。計算です。
この「席を潰す」話は、ステージを作ったときの記事に全部書きました。→ 居酒屋にステージを作りました。100席の店で20席潰して、かかったのは25万円
逆に言うと、この3つが1つでも欠けると、ライブは赤字に近づきます。専業のライブハウスは、1つ目が最初からありません。
そして年に50本やって、増える利益は250万円ほどです。これで食っていける金額ではありません。うちは居酒屋があるから成り立っています。
ライブは、居酒屋の副業として成立している。ライブ単体では成立しない。
まとめ
- 店を1日開けるだけで約5万4千円が出ていく(自分の人件費は含まず)
- ライブの日は売上が約5割増。増えるのは約7万円
- そこから原価を引いて、残るのは約5万円
- ただしPAを外注すると3万5千円まで落ちる
- うちもノルマを取っている(1人3枚)。ただし回収しきれていない
- 取り立てずに済むのは居酒屋の売上で被れるから。人柄ではない
- ノルマの役割は金の回収ではなく、続けられる相手かどうかを見ること
- ハコの常連は、あなたのライブを見にこない。客席にいるのは全員あなたが呼んだ人
最後に
ここまで金の話ばかり書いてきました。固定費、原価、機会費用、回収率。
でも、店をやっていて本当に思っているのは、そういうことではありません。
お客さんをたくさん呼んだほうが、盛り上がるし楽しいよ。
ノルマを埋めてほしいのは、金のためだけではありません。人が入っている日のライブは、演奏する側も見る側も、店の側も、全部いいんです。逆に、がらがらの日は誰も得をしません。
チケットを売るのは面倒くさいし、頭を下げるのは気が重いです。自分もやっているので分かります。それでも呼んだほうが、絶対に楽しいです。
では、どうやって呼ぶのか。売り切っていた頃にやっていたことと、店側から見て「これはまずい」と思うことを、別の記事に書きました。
楽器店に10年、飲食に20年いて、今もバンドをやっています。演者の側もハコの側も見てきました。その立場から書いています。→ プロフィール

コメント