宮崎で「UTAGE」という居酒屋をやっています。コロナのときに客席を潰してステージを作り、今はライブもできる店になりました。
この記事では、そのときに何席潰して、いくらかかったのかを全部書きます。
先に結論を言うと、現金で払ったのは25万円ほどでした。
ライブができる箱を作るというと、防音工事だけで数百万という話をよく聞きます。うちはそうなりませんでした。ただ、それにはいくつか理由があって、そのまま真似できる話ではありません。そこも隠さずに書きます。
そして最後に、本当のコストは金ではなかったという話をします。ここが一番書きたいところです。
コロナで、店を閉めていました
もともとUTAGEは、音楽とは何の関係もない普通の居酒屋でした。
変わったきっかけはコロナです。まともに営業ができなくなって、どうしたものかと、いろんな人に相談して回っていました。
そのときに言われた一言が、これでした。
やりたいことをやればいいんじゃない?
それで、客席を潰してステージを作ることにしました。
今にして思えば、店を閉めていたからできたという面は大きいです。営業しながらだったら、工事の間の売上をどうするかで悩んで、たぶん踏み切れていません。
潰したのは、およそ20席
元は100席ありました。今は80席です。
ここが、これから同じことをやる人にいちばん伝えたい部分です。潰した席の内訳を書きます。
| 用途 | 潰した席数 |
|---|---|
| ステージ | およそ12名分 |
| PA席 | 4名分 |
| 控室 | 6名分 |
気づいてほしいのは、ステージ以外で10名分を使っているということです。
ステージを作ろうと考えるとき、たいていの人はステージの広さしか計算しません。自分もそうでした。
でも実際にはPA席が要ります。卓を置いて、人が座る場所です。それから控室も要ります。出演者が着替えて、出番まで待って、機材を置いておく場所です。これがないと、演者は客席で待つことになります。
ステージだけ作っても、ライブはできません。
ステージ自体の広さは、およそ3m×4mです。ドラムとアンプ2台を置いて、4〜5人でちょうどいいくらい。7人になると狭いですが、乗れないことはない、という感じです。
かかった金を、全部書きます
3つに分けて書きます。分けて書く理由は、この3つで性質がまったく違うからです。
① ステージの造作と照明の設置:10万円未満
自分と友人でやりました。業者は入れていません。
照明も、中古の照明と卓を譲ってもらって、自分たちで取り付けました。
いちばん苦労したのはステージのせり出し部分です。ここだけは何度かやり直しました。まっすぐ作るのが難しくて、人が乗って動いても軋まないようにするのに手こずりました。
② 音響機材:0円(買っていたら50万円くらい)
PA、スピーカー、ミキサー、マルチケーブル。これを全部、譲り受けました。
閉店したライブハウスのものです。自分が昔、そこでバイトをしていました。
正直に言います。ここが、この記事でいちばん再現できない部分です。
買い揃えていたら50万円くらいはかかっていたと思います。それがゼロで済んだのは、腕でも工夫でもなく、20年前のバイト先とのつながりが残っていたからです。
だからこの記事を読んで「25万でできるのか」と思った方は、ご自分の場合は75万円くらいで見ておいてください。そのほうが安全です。
③ あとから買い足した機材:約15万円
ドラムセット、アンプ類、ケーブル、マイク、ギター、ベース、その他こまごましたもの。これ全部で15万円くらいです。
安いと思われるかもしれません。中古を、一度にまとめて買いました。
ここは自分が楽器店に10年いたことが、いちばん効いた部分です。どのモデルが中古でいくらなのか、どこが劣化していると使えないのか、どこで買えば安いのか。その知識と、当時の人脈をフル活用しました。
同じものを何も知らずに買っていたら、倍は出していたと思います。この「中古の買い方」については、別の記事でちゃんと書きます。
合計:約25万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ① ステージ造作+照明設置 | 10万円未満 |
| ② 音響機材(譲り受け) | 0円(買えば50万円相当) |
| ③ 買い足した機材 | 約15万円 |
| 実際に払った現金 | 約25万円 |
| 機材を譲り受けられなかった場合 | 約75万円 |
なお、補助金や助成金は使っていません。コロナ期でしたが、ステージのためには申請していないので、25万円は全部自腹です。
防音は、していません
ここが金額を大きく左右した部分です。防音工事は一切やっていません。
やらずに済んだ理由は、単純に物件です。7階建ての最上階に入っています。上に誰もいません。
おかげで近隣からのクレームは出ていません。ただ、何もしていないわけではなくて、ライブのときは窓を閉め切るなど、できる配慮はしています。
逆に言えば、1階の路面店や、上下階に人がいる物件だったら、この記事の金額はまったく参考になりません。防音は、やるとなれば桁が変わります。
電気については、既存の容量で足りました。アンプやPAを繋いでもブレーカーが落ちたことはありません。電気工事も入れていません。
許可は、何も要りませんでした
ここ、これから同じことをやろうとする人がいちばん怖がるところだと思います。調べても「風営法に注意」としか書いていないので。
うちの場合の結論を書きます。
- 飲食店営業許可 … もともと持っている。追加は不要
- 消防への届出 … 特になし
- 保健所への変更届 … 出していない
ただし、これをそのまま受け取らないでください。うちが何も要らなかったのには、理由が2つあります。
理由1:深夜酒類提供飲食店営業の届出を、もともと出していた
深夜0時を過ぎてお酒を出す店に必要な届出です。うちはステージを作る前から出していました。以前は朝4時まで営業していた時期があるので。
0時前に閉める居酒屋は、これを持っていないことが多いはずです。その場合は、まずここから始まります。
そしてここで、ほとんどの人が混同していることを整理しておきます。
| やること | 必要なもの |
|---|---|
| 0時以降に酒を出す | 届出 |
| 0時以降に音を出す(ライブを見せる)+酒 | 許可 |
営業時間の話と、音出しの話は別物です。
うちは4時まで営業していた時期も、音出しは0時前で止めていました。だから届出だけで足りています。「深夜まで開けている店=ライブもいつまでやっていい」ではありません。
理由2:ライブを0時前に終わらせている
ここが一番大事なところです。
2016年の風営法改正で「特定遊興飲食店営業」というものができました。ざっくり言うと、こうです。
深夜0時以降に、お客さんに遊興をさせて(=ライブを見せて)、かつお酒を出す
→ 「許可」が必要になる
「届出」ではなく「許可」です。ハードルが上がりますし、店の場所が自治体の指定地域内にあることも条件になります。
つまり、ライブの終了時刻は、自分で選べる設計変数だということです。
0時前に終わらせると決めれば、手続きは軽くなります。0時をまたぐ設計にした瞬間、話がまるごと変わります。うちは前者を選びました。
なお消防と保健所については、宮崎市での話です。自治体によって運用が違うので、必ずお住まいの地域の消防署・保健所・警察署に確認してください。この記事を根拠にしないでください。
本当のコストは、金ではありませんでした
ここからが、この記事で一番書きたかったことです。
25万円で済んだ、という話をしてきました。安かったと思います。
でも、25万円は一度きりです。潰した20席は、営業日ごとに毎日、ずっと失われ続けます。
数字を出します。うちの客単価はだいたい4,000円、月に25日ほど営業しています。
ただし、潰した20席が効くのは満席の日だけです。席が余っている日は、100席あっても客は増えません。
うちの場合、満席になるのは金曜・土曜・祝前日です。平日の稼働率は45%くらいで、席は余っています。断ることがあるのは、ほぼ週末だけです。
週末は月に10日ほど。計算するとこうなります。
先に「満席」の意味を説明しておきます。うちは6人がけのテーブルが13〜14卓あります。卓が全部埋まった状態を満席と呼んでいますが、6人席を2人で使われることもよくあるので、実際の人数は80人になりません。だいたい60〜70人です。
| 満席の日1日あたり | 20席 × 4,000円 = 8万円 |
| 月あたり(上限) | 8万円 × 10日 = 80万円 |
この80万円は上限です。週末でも断らずに済んでいる日はあるので、実際にはもっと小さい数字です。そこは正直に書いておきます。
それでも、こうなります。
ステージの工事費25万円は、満席の日3日分で消える。
これが、ステージを作るということの本当の値段です。
工事費は工夫すれば下げられます。DIYもできるし、中古も使えます。でも席は、工夫では戻ってきません。
これから店にステージを作ろうと考えている方は、見積書の金額ではなく、失う席数のほうを先に計算してください。そっちが本体です。
なぜ、うちのライブは日曜なのか
UTAGEでライブをやるのは、たいてい日曜です。
理由は、いま書いた計算そのものです。
金曜と土曜は満席になります。その日にライブを入れるということは、確実に入るはずだった売上を捨てるということです。1日8万円ぶん、席を空けて待つことになります。
日曜なら、その分は小さくて済みます。
ここで、バンドをやっている方に読んでほしい話になります。
ライブハウスに出たことがある人なら、金土の枠は条件が厳しくて、平日や日曜は緩いというのを経験していると思います。ノルマの額が違ったり、そもそも金土の枠が空いていなかったり。
自分も演る側だったころは、正直「なんで土曜はこんなに高いんだ」と思っていました。
店をやってみて分かりました。ハコが捨てている金額が、曜日で違うからです。
金土の枠を1つ渡すというのは、確実に埋まる日の売上を丸ごと差し出すということです。「土曜にやりたい」というのは、店に対して「その金を捨ててくれ」と言っているのと、構造としては同じ意味になります。
だから高い。意地悪でも、ぼったくりでもありません。
これを知っておくと、ブッキングの交渉が変わります。「平日でもいいので」と言えるバンドは、店にとってありがたい相手です。条件の話がしやすくなります。
ノルマがきついのは事実です。それは変わりません。ただ、なぜそうなっているのかを知らないまま消耗するのは、もったいないと思っています。
元は取れたのか。取れていました。ただしライブではなく
ここまで読んで、当然こう思うはずです。「で、元は取れたのか」
答えを先に書きます。だいたい取れています。ただし、稼いでいるのはライブではありませんでした。
貸切です。
うちは靴を履いたまま入れるワンフロアの造りです。そこにステージがあります。この組み合わせが効きました。
それと、ここは結果論なんですが、店の見た目がライブハウスじゃないことも大きかったと思っています。
うちはシャンデリアがぶら下がっていて、窓が大きくて、街が見えます。黒い壁に機材が並んだ、いわゆるライブハウスの見た目ではありません。
会社の忘年会や歓送迎会の幹事さんが探しているのは、「宴会ができて、ついでに何かできる店」です。ライブハウスは選択肢に入りません。「眺めのいい店に、たまたまステージがある」から選ばれています。
団体のお問い合わせをいただくとき、「ステージを使わせてもらえますか」と聞かれることが多いんです。余興をやりたい、発表をしたい、何か見せたい。そういう需要が、思っていたよりありました。
そして靴を脱がなくていいことが、想像以上に効いています。実際にお客さんから言われるのは、こういうことです。
- 年配の方……座敷だと膝が痛くなる
- 女性……ブーツや編み上げの靴の脱ぎ履きがない
幹事さんは、参加者全員が文句を言わない店を探しています。靴を脱ぐかどうかは、その条件に入っています。うちが選ばれる理由の何割かは、正直、音楽と関係ありません。
数字にするとこうです。
| ステージ目当ての貸切・団体 | 月3件ほど |
| 1件あたりの売上 | 通常営業の日の約2倍 |
| 通常の日との差額 | 1件あたり 約15万円 |
| 月あたり | 約45万円 |
なぜ貸切のほうが売上が高くなるのか、その理由は別の記事に書きました。
さっき、失った席の逸失は上限で月80万円だと書きました。実際は断らずに済む週末もあるので、もっと小さい数字です。
そこに、貸切で月45万円が戻ってきている。
音楽のために作ったステージの元を取っていたのは、音楽ではなかった。
正直、これは作ったときには想定していませんでした。バンドのために作ったつもりでした。
でも実際に店を支えているのは、忘年会や歓送迎会で余興をやりたい団体さんです。
これから店にステージを作ろうと考えている飲食店の方に、いちばん伝えたいのはここです。
ライブで回収しようとすると、たぶん厳しいです。でも「ステージがある店」という一点で選ばれる場面は、想像よりずっと多いです。そこまで含めて計算すると、判断が変わるかもしれません。
それでも、やってよかった
ここまで、失った席の話ばかり書いてきました。
正直に言うと、コロナが明けてから居酒屋としての売上はコロナ前を超えて回復しました。その結果、ライブで店を使う機会は、むしろ減っています。
数字だけ見れば、20席を返してもらったほうが得なのかもしれません。
それでも、やってよかったと思っています。
もう一度あの状況に戻っても、たぶん同じことをします。
このステージを作るまでに何をやってきたのかは、プロフィールに書いています。
店の月々の損益がどうなっているのか、ライブ1本でいくら動くのかは、次の記事でもっと細かく書きます。
まとめ
- ステージ造作と照明の設置は10万円未満。自分と友人のDIY
- 音響機材は譲り受けて0円。買っていたら50万円くらい
- 楽器などの買い足しが約15万円。中古をまとめ買い
- 現金の支出は約25万円。機材を譲り受けられない場合は75万円くらいを見ておく
- 防音はしていない。7階建ての最上階だから。物件次第で金額は変わる
- 潰した席はおよそ20席。ステージ12・PA席4・控室6
- 許可は追加不要。ただし深夜酒類提供の届出があり、0時前に終わらせているから
- 本当のコストは工事費ではなく、失った席。25万円は満席3日分で消える
- 元を取っているのはライブではなく貸切。月3件、通常の2倍の売上
金額の話ばかりしましたが、最後に判断を決めたのは数字ではありませんでした。
「やりたいことをやればいいんじゃない?」と言われて、やっただけです。
ただ、そのあとに払った金額と、失った席は、正確に把握しておいたほうがいいと思っています。知らないまま続けるのと、分かった上で続けるのとでは、まったく違うので。

コメント